平成25年6月24日 第1回東日本大震災報告会 報告

常勤研究員 安井光洋

去る平成25年6月24日、智山伝法院では第1回「東日本大震災報告会」を開催した。この報告会は昨年の「東日本大震災報告・研究会」を改称し、被災地復興や支援に密接にかかわる人々を講師として招くことに主眼を置き開催する。このことにより被災地の現状を的確に把握することが目的である。また、災害と宗教に関する研究活動については別途開催を予定している。以下、その要旨を記す

さて、第1回目である今回は福島第一教区廣徳院の島玄隆師を講師としてお迎えし、「原発事故被災寺院の現状」というテーマでご講演いただいた。
 講演の前半は、震災当日の島師とそのご家族の様子についてお話しいただいた。地震発生時に師と奥様は華厳の滝を旅行しており、車を運転中だったため揺れには気付かなかったという。しかし、すぐに福島第一原発の事故が明らかになったため、師は放射能汚染の危険性を考え、御自坊のある福島へは戻らず、東京への避難を選択されたとのことであった。
 このように、震災当日のご自身の様子を詳細にご説明いただいたことで、当時の混乱が改めて生々しく思い出された。

 後半は師の御自坊がある楢葉町と寺院修復の現状について写真のスライド等を用いながらご説明いただいた。
 楢葉町は昨年8月に警戒区域から避難指示解除準備区域へと再編され、日中の立ち入りが可能となった地域である。しかし、除染作業は思うように進んでおらず、将来的な帰宅の見通しについても町民の間で意見が分かれているという。
 その中でも「帰れるかどうかわからないので自宅の修復に踏み切れない」、「自分はいずれ楢葉町に戻りたいが、子供は住ませたくない」といった町民の方々のご意見を紹介していただけたことで、メディアを通しては知りえない現場の声を知ることができた。

 また、除染作業の問題点や食品の放射能検査についても、測定値と測定箇所の考察を交えてご説明いただいた。具体的な除染作業の問題点としては、除染の対象が民家から20メートル以内となっているため、たとえば20メートル圏外の樹木から汚染された葉が飛ばされてくれば、せっかく除染した地域も再び汚染されてしまう、といった例が挙げられていた。
 さらに、今回の講演で師は「目的意識を持つことの重要性」を幾度も強調されていた。それは必ずしも被災寺院に限ったことではなく、被災者は被災者で、支援者は支援者でそれぞれの目的を明確にし、それを実現させるための方法を考えることが重要であると師は言う。
 そして、師はご自身の目的として「寺院の健在をアピールすること」を掲げられた。過酷な避難生活が続く檀信徒の方々に対して、決して弱い姿は見せず、「お寺は大丈夫」と力強くアピールする姿勢に師の僧侶としての信念が顕れていた。